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[高校]専門委員長かく語りき:高校新人戦を終え,大分県高校ラグビーの現在と今後について語って頂きました。

専門委員長かく語りき ~高校ラグビーの進むべき道は~


久しぶりにペンを執った。
令和4年度の県内公式戦をすべて終え、8年間の専門委員長職に終止符を打ち、次年度から後身に職を譲る事にした。色んな事があった8年間。県内の高校勢力図も変わり、活動している部の数も大きく減り、過去一世風靡したラグビー王国大分もずいぶん元気がなくなっている。

2巡目大分国体終了後にレガシーを残すべく打ち立てた「大分ラグビーの10年構想」を今改めて検証すると、あのプランが正しかったか・間違っていたかではなく、あのプランをやれたのか・やらなかったのかに辿り着く。果たして地域協会が主になった、小中高一貫指導システムが機能したのかどうか。結局県内周辺のチームから活動の灯が消え、合同チームで生き永らえながらも消えかかっているチームは後を絶たない。確かに少子化の波により子供の数が減ったのは事実であるが、裾野を広げる活動は今までどこの地域協会も血眼で取り組んできた。しかし、地元の高校へとつなぐ中学生への取り組みが甘かった。つなぎ止めておく事もさながら、他地域に引き抜かれ地元に残らないという予期せぬ事例も出てきた。中心になった大人もやがて年を取り、後継者が育たないままマンパワーの数が減り、キッズたちの活動の場を追われているのが現状の様に思う。

1回目の「大分剛健国体」の際、成年教員の部で集まった諸先輩達が中心となって、現存のチームの礎を創ってくれた。県内ラグビーもその諸先輩達が中心となって、ラグビー王国大分を牽引してくれた。しかし時は移り、バブル期の後は後輩たちが採用にならず、何を隠そう私もあと2年後には定年であり、その頃には専門の教員が現場には7・8名しか残らない。そのほとんどが50代である。また、ここ2・3年で大分市内のチームの顧問が退職し、穴埋めに周辺から転勤してくれば、地域の指導者がいなくなり、子供だけでなく大人の数も減る。地域の復活が益々厳しくなり、チーム数が更に減る事だけは歯止めをかけたい。これも時代の流れと諦めるのは簡単だが、もう一度地域がひと固まりになり、小中高の一貫指導のサイクルを立ち上げてみてはどうだろうか?このプランは決して間違っていないと思っているのだが…

今後は教員に頼らず、地域から中心になるべき人材を育て、外部指導者が中心となって部活動運営が行われる時代に変わる。必ず変わる。大切なのは、どの地域がこれを先取りし成功させるかにある。〝対岸の火事〟ではダメ。「10年構想」でイメージできなかった危機感を今こそ皆で共有しマンパワーを結集する時である。全国的にラグビー人口が減少している最中、我々の進むべき道として、再度地域での特色を生かした一貫指導への取り組みを推奨する。

県内の高校ラグビー事情を話そう。

新人戦15人制出場チーム6チーム 大分東明・大分舞鶴・大分工業・高田・大分雄城台・別府鶴見丘、10人制出場チーム3チーム 大分上野丘・玖珠美山・合同(臼杵・文理大附属・昭和学園・日田)計12チームが人数の多い少ないはあれども活動している。やはり春の時点で15人揃っているチームは大分市内に多く、合同チームを編成する4チームは5人以下の部員で活動している。そんな中、周辺地域でも高田高校は地元OBの協力によって人数の確保ができており、また別府鶴見丘も地域の取り組みもさながら、部員たちの努力で仲間を確保してきた。大分上野丘も自努力で単独10人制出場を果たしており、新入部員が加入すれば新年度から15人制の舞台に舞い戻るであろう。玖珠美山も選手層が充実しており、新入生加入後今年度の台風の目になる事は必至である。

10人制では合同が(青)大分上野丘を相手に奮起し前半は0-7と接戦。


令和5年度より、合同チームが春の選抜大会、冬の全国大会に出場する事が可能となった。全国的な部員不足の中、少人数で努力している高校生にチャンスを与える形となる朗報である。しかし、一人でも部員を増やし単独で大会に出場する事を夢見て、日々少ない人数で練習に励んでいる合同チームのそれぞれの選手たちに、まずは敬意を表したい。それほど彼らにとって人数を増やす事は、血の滲む練習の努力と同じ事であるから … 。

15人制1回戦で熱戦を繰り広げた高田と別府鶴見丘


総合的に見て、今年も大分東明・大分舞鶴のツートップの図式は変わらない。決勝では舞鶴は低いタックルでよくディフェンスし、ボールポゼッションで時間を殺し、点差を考えながらゲームを進めていたが東明のセットプレーの強さ・スキルフルでスピーディーなアタック、ミスは多かったもののハイレベルなラグビーで一蹴された。東明の強さにはフィジーからの留学生の活躍がいつも取り上げられるが、留学生効果で日本人選手の意識・スキル・フィジカルが共に向上している。まさに外国人選手加入でチーム強化に拍車がかかった成功例であろう。2019年の日本で行われたワールドカップがきっかけでフィジー選手をチームに招聘した訳だが、闇雲に外国人留学生を入れれば強くなると考えるのは大間違いである。そこには監督やスタッフ、学校の覚悟があり、留学生から学ぶ真摯な姿勢があり、ファミリーとして取り込む愛情が必要である。それらを網羅した型が今の東明を支えるフィロソフィーだと思う。高校全日本候補5名、うち2名の留学生が高校JAPANに選出され、また女子選手も女子の高校JAPANに選ばれ、全国でもその名に恥じない強豪チームへと成長した。現在の東明を打ち破るには、東明を上回るチームの魅力を身に付ける事以外無いと考える。

決勝戦は8年連続で大分東明vs大分舞鶴


競技人口の減少は、ラグビーの試合のレベルが上がりすぎたのも原因の一つではないかと考える。南アフリカやアイルランド・スコットランドの外人を倒す日本人を見て、痛快に感じない者はいないだろう。しかし、それは外人レスラーをなぎ倒す日本人プロレスラーを見ているのにどこか似ていないだろうか。見る事は興奮して実に面白い。でも、プロレスラーになるか?と質問されてYESと答える者はごくごく僅かである。それと同じことがラグビーでも起こっているのではないか?見る(観る)事は面白い。でも、やるスポーツじゃないよな。痛そうだし、あんなデカい奴にタックルなんか行けないよ … 昔も3K(キツイ・汚い・ケガしそう)とよく言われていたが、Z世代には更に遠くかけ離れた球技になってしまったのではないだろうか。

 ならば尚更、キッズ・ジュニア・高校生へのアプローチに神経を使わなければならないと思う。タグによって裾野を広げる事は、どこの地域でも取り組んでいる事だが、難しいのはタグにコンタクトを取り入れる部分(ミニラグビーへの移行)である。コロナ禍により、今の世代は争い事を嫌いリスクの高い事を避け、自らキツい事をかわす選択をする傾向にある。ラグビーの経験や興味がなければ、ラグビーに触れ合う事さえしないだろう。「見る事とやる事は違う。」あっさりそう答えを出してしまうのが居たたまれない。タグでボールを持って走る喜びを味わっても、人にぶつかる事は嫌だという子供を育てないよう、ラグビーの本質とコンタクトの楽しさをキッズ世代に刷り込んで、受け皿を保障していく事が我々のこれからの仕事ではないか。その為には、我々大人がまず学び、覚悟を持って子供たちに向き合う事だ。専門家に任せる時代は終わった。

キッズ(小学生)にラグビーの本質を味合わせ、ジュニア(中学生)にゲームの楽しみ方を学ばせ、シニア(高校生)にラグビーの哲学を語る。育った選手を中央に巣立たせ、地元に帰し己の学びを根付かせる(還元させる)。

ジェネレーションギャップは否めないが、そのギャップを埋めるべくラグビー愛を持ってマンパワーで難局を乗り切りましょう。高校ラグビーだけでなく、すべてのカテゴリーで本気のアプローチを期待します。


令和5年 2月1日

大分県高体連ラグビーフットボール専門委員長

江 藤  賢